連載コラム

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2025年08月14日

なでしこリーグがつなぐ地域の絆~愛されるシンボルを目指して~愛媛FCレディース

地域・企業とともに描く 愛媛FCレディースの「未来を育む」サッカーフェスティバル

【信頼を築く、地域との対話】

愛媛FCレディースが、四国中央市で地域貢献活動としてのサッカーフェスティバルを実施するようになって、今年で3回目を迎えた。クラブが初めてこの地で活動を展開したのは、コロナ禍の只中にあった2022年。大王製紙株式会社を通じてエリエールスポーツクラブから声がかかり、当初はサッカー教室ではなく、選手による講演会という形で実施されたのが最初の一歩だったという。その翌年からは、実際に子どもたちと触れ合える形でのサッカー教室が再開され、以降、毎年継続して実施している。

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開催地である四国中央市は、大王製紙の創業地であり、エリエールスポーツクラブが拠点を置く地域だ。愛媛FCレディースとしても、県内全20市町をホームタウンとして活動する中で、この地でのイベント実施には大きな意義があると捉えている。

クラブと地域とのつながりは、単発の取り組みではなく、継続的な活動によって少しずつ形を成してきた。本イベントを統括する営業担当の原田大輔氏は、同市に足を運ぶたびにその手応えを感じている。

「スタジアムからの距離は少しありますが、熱心に応援してくださっている方やサポーターも多い地域です。そうした地域にクラブ自ら出向き、イベントを開催できる意義は大きいと感じます。四国中央市における営業ではそうした活動を前向きに伝えられることもあり、協賛やサポーターの数も増えていると感じます」

「地域に根ざすクラブ」であり続けるために、ピッチの外での活動にも積極的に取り組む姿勢は、クラブの価値や認知度の向上にもつながっている。


【子どもたちに届けた"挑戦する楽しさ"】

真夏の空が広がる7月13日、「第3回愛媛FCレディースサッカーフェスティバル」がエリエールスポーツクラブ内の多目的ホールで開催された。対象は地元の小学生で、約90分間にわたって選手と触れ合いながら体を動かし、サッカーの楽しさも体感できる内容となっていた。原田氏は元教員という経歴も活かし、イベントの構成に工夫を凝らしたという。

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「最初はボールを上に投げて手を叩く動作から入りました。まだサッカーに触れたことのない子でも楽しく参加できるように、前半はサッカー以外のボールを使って身体を動かす時間をつくっています。体育の授業のような感覚で、少しずつボールに慣れてもらい、後半はサッカーボールを足で扱うプログラムに移っていきます。子どもたちの運動量を確保しつつ、レディースの選手とたくさん関わってもらうことが一番の目的です」

参加者はグループ分けされ、愛媛FCの3名の選手がそれぞれパス、シュート、リフティングなど、実践的な動きも交えた指導を行った。チームを代表して参加した野口珠里は、子どもたちの率直な反応を新鮮に感じたという。特に印象に残ったのは、子どもたちが「できない」と決めつけずに、まず"挑戦してみる"姿勢を見せてくれたことだ。

「リフティングやパスにも果敢にチャレンジしてくれる姿を見て、もっと教えたくなったし、楽しそうな表情を見てこちらも楽しくなりました。年齢を重ねるにつれて、初めてのことに対して"できないかもしれない"と一歩引いてしまうことがあるけれど、積極的に挑戦することが大事だし、そういう姿勢が『応援したい』と思われるきっかけになるんだなと思いました」

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子どもたちのやる気を引き出すために心がけたのは「褒めること」。できたことはもちろん、チャレンジした行動自体をしっかり認める姿勢が、子どもたちの意欲をさらに引き出した。

「小さい子どもたちは、褒められると嬉しそうな表情を見せてくれます。だからこそできた時はもちろん、まず挑戦したこと自体に対して"ナイスチャレンジ!"と声をかけて、できたらもっと褒めるようにしました」

技術指導だけでなく、子どもたちとの対話を通じた交流も、フェスティバルの大切な要素となった。溝上可夏は、子どもたちが目を輝かせながら質問をしてくる姿に"憧れの存在"としての責任と喜びを実感し、保護者との交流の中ではクラブに対する関心の高まりも感じたという。

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「ドリブルを教えたんですが、『どうやって触ったらいいの?』と子どもたちが積極的に質問してくれて、教えやすかったです。一緒にプレーしながら、楽しんでくれているのが伝わってきました。また、親御さんとも接する中で、『今度試合見に行くね』『頑張ってね』などと声をかけてもらい、少しずつクラブの存在が地域に浸透してきている実感があります」

イベントの終わりには、「もう終わっちゃうの?」「もっとサッカーしたい」といった声が子どもたちから自然とこぼれた。その様子を見て、安田美泉は「少しは地域に貢献できているのかもしれない」と感じたという。日々の地道な活動を積み重ねる中で、女子サッカーへの関心や認知が少しずつ広がっている手応えもある。

「試合の告知活動をしていた時に、初めて観戦された方が『女子サッカーってこんなにすごいんだ!と驚きました』と話しかけてくださったのが印象に残っています。今回のようなイベントに参加して、女子サッカーを知らなかった方々に存在を知ってもらい、実際に試合を観に来てもらえるのはとても嬉しいことです」

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【企業とクラブの連携が育む子どもたちの未来】

大王グループを展開する大王製紙株式会社は、創業地である愛媛県で地域に根ざしたスポーツ支援を展開しており、その一環として愛媛FCレディースをスポンサーの一員として支援している。エリエールスポーツクラブの支配人であり、イベントの開催に尽力してきた河端篤志さんは、企業としての理念と社会的責任について言及した。

「私たち大王グループは、地域社会との共生の一環として、愛媛FCレディースを応援させていただいています。エリエールスポーツクラブが掲げる理念は、お客様に夢と勇気と喜びを与え、健康的な生活を提供し続けることによって地域社会の発展に貢献することです。地域の"宝"である子どもたちを支援していくことは、大王グループが掲げる"世界中の人々へ やさしい未来をつむぐ"という理念の実現にもつながると考えています」

イベントでは、選手と直接触れ合う貴重な機会が、子どもたちの表情や行動に大きな変化を与えていることを実感するという。そして、その背景には、愛媛FCレディースの選手やスタッフの方々の"熱"があると河端氏は語る。

「選手と交流することで、子どもたちに夢を持つことの大切さや、その夢に向かって努力し続けることの価値を感じてもらえる機会になっていると感じています。イベント当日、子どもたちは目を輝かせて真剣に話を聞き、質問コーナーでは我先にと手を挙げていたのが印象的でした。原田さんをはじめ、クラブスタッフの情熱がレディースの選手にも伝わって、選手の皆さんが子どもたちと近い距離感で接してくれるので、子どもたちの熱が年々高まっている印象です」

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こうした取り組みは、スポーツへの関心を高めるだけでなく、エリエールスポーツクラブのブランド価値の向上にもつながっている。多くの子どもたちや保護者の方々からも継続開催を求める声が高まっており、愛媛FCレディースとの協働で生まれた"輪"は、地域全体へと着実に広がりつつある。


【地域・企業とともに持続可能な取り組みへ】

第3回を迎えたサッカーフェスティバルは、参加した子どもたちの笑顔や保護者からの好意的な反応に支えられ、地域とのつながりをより深める機会となった。

「もっと広い場所で開催できたら」「より多くの子どもが参加できるようにしてほしい」といった保護者からの前向きな声も届いており、今後の開催に向けたヒントにしたいと原田氏は語る。クラブとしても、より充実したプログラムや環境を整えることで、地域とともに成長し続けたいという想いがある。

「愛媛県を代表する企業である大王製紙様と連携できていることは、クラブの価値や知名度の向上にもつながっています。チーム成績は浮き沈みがあるものですが、地域貢献活動は順位に関係なく続けていけるもの。だからこそ、クラブとしてこうしたイベントを大切にしながら、呼んでいただける機会をもっと増やしていきたいと思っています」

こうした想いは、協働する大王グループにも共有されている。河端さんは言う。

「引き続き、スポンサーの一員として応援させていただくとともに、プロスポーツを活用した地域振興事業を支援していきたいと思います。愛媛FCレディース様とは今回のような協働イベントの機会をもっと増やし、さらに多くの子どもたちに参加してもらえるような場にしていきたいと考えています」

スポーツクラブと企業、そして地域が歩調を合わせて築いていく未来。子どもたちのまっすぐなまなざしが、この持続可能な連携モデルの可能性を映し出している。

文=松原渓(スポーツライター)

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